梅下定離 |
ぼくのクラスには「もののけ」がいた。ずっと一緒の教室で同じ授業を受けていた。田舎では、今でもときおり見かけることのある光景だ。
彼の本当の名前は知らない。
名前を知られると言霊にしばられるのだといって、誰にも教えてくれなかった。
言霊にしばられる、という意味はわからなかったけれど、教えられない事情があるのはなんとなく分かった。だから、みんな彼の事を「もののけ」くんと呼んでいた。
毎日、ランドセルを背負って人間と同じように登校してくる。
黒と赤のランドセルが散らばるほそうのない砂利道で、ぼく達新入生のランドセルはすぐに分かる。どれもピカピカ光っているからだ。
けれど、「もののけ」くんのランドセルはぼく達のものとは違っていてひどく汚かった。すみっこは色が剥げて茶色かったし、所々に大きなシミもあった。形もどこかいびつに変形していて、その汚さが遠くからでも目立っていた。
でも、「もののけ」くんはそんな目立つランドセルを別段気にする様子もなく、毎日楽しそうに通っていた。
彼が人間でないことをイヤがるクラスメイトもいた。
さいしょのころ、本当は、ぼくもそんなクラスメイトの一人だった。
一年生の二学期になってすぐの席替えで、ぼくの席は「もののけ」くんのとなりになった。
これからしばらくはあの席に座るのか、と思うとなんとなくもやもやした気分で登校した初日に、ぼくは授業の教科書をあらかた忘れていっていた。前の晩に、明日からのことを考えて溜息をついて、次の日の教科書を入れかえるのを忘れていたようだ。
先生に教科書を忘れたことを言うと「隣の人に頼んで見せてもらいなさい」と言われた。
ぼくの右側は「もののけ」くんで左側は女の子だった。
女の子はどうも苦手だ。一緒に遊んでいても「服が汚れる」とか文句いうし、何かあるとすぐに泣く。そのくせ「これだから男子は」といってバカにする。
左側の女の子はその代表的な子で、その女の子に頼むくらいならまだ「もののけ」くんに頼むほうがましな気がした。仕方なく今日だけ一緒に教科書を見せてくれるよう彼に頼むと、あっさりと「いいよ」と言われた。
その日最初の授業が始まると、今度は消しゴムがないことに気がついた。
少し前の図工の時間に、ふざけてハサミで切り刻んでいるうちに小さくなって、大部分はどこかにいってしまった。残っていた小さな欠片を見て、お母さんに買ってもらおうと思っているうちに、その欠片までどこかにいってしまっていた。
その事を、筆箱をあけるまですっかり忘れていた。
それでもノートに書くのをまちがわなければいいや、と思っていたが、そういう日に限って最初の授業中にさっそくまちがった。
まちがったノートを見ていると、鉛筆を握り締めている手がじわりと汗ばんできた。
それは教科書を見せてもらうためにお互いの机を引っ付けていた「もののけ」くんにも、すぐに気付かれたようだった。
「もののけ」くんは机の中の道具箱からハサミを取り出すと、自分の筆箱に入っていた小指の先くらいに小さな消しゴムを半分に切った。そして大きく見える半分をぼくに「はい」とくれた。
ぼくは彼の行動に驚いたけれど「ありがとう」と言ってそれをもらった。
良かった、と思ってもらった消しゴムでまちがった文字をこすると、ノートは真っ黒になった。それは文字が消える、というよりは文字が薄くなるだけのようなものだった。なんだか変なものをもらったな、と思って横目で「もののけ」くんのノートをのぞくと、彼のノートは真っ黒な場所だらけだった。その日のぼくのノートは、あちこち真っ黒な場所がたくさんできた。
急いで家に帰ってから、ぼくはお母さんに頼んで新しい消しゴムを買ってもらった。大きくて白くてよく消えるものを買ってもらった。そして、「もののけ」くんからもらったあまり役に立たない消しゴムを捨てた。
それから一週間くらいたったある日、授業中に隣から小さな声が聞こえた。声が聞こえたほうを見ると、「もののけ」くんが困ったような顔をしていた。彼の手元を見ると、前にもらった消しゴムの小さなかたわれがノートの上で粉々になっていた。
それを見て、ぼくは本当に驚いた。
ぼくは、あんなに小さくなった黒くなるだけの消しゴムなら、もうとっくに新しいものと交換しているだろうと思っていた。彼があんなものをまだ大事に使っていたことが信じられなかった。
まわりにいるクラスメイトの中で、「もののけ」くんが困っている事に気がついたのはぼくだけのようだった。ぼくは自分の筆箱の中の新しさが残る消しゴムを見た。まだ使っていないきれいで真っ白な角が二つも残っている。
少し迷ってから、机の中のハサミを取り出してその消しゴムを半分に切った。
「はい」
右隣の机の上に半分になった消しゴムを乗せた。「もののけ」くんは驚いたようにぼくを見た。
「……これ」
「あげるよ」
「でも」
「前はぼくがもらったから、今度はあげるよ。よく消えるよ、それ。消してみなよ」
「うん」
少し困ったような顔でぼくが置いた消しゴムを手に取ると、「もののけ」くんはそっとノートの上をこすった。思っていた通り、まちがった部分がひどく黒ずんだノートはたちまちきれいに白くなり、「もののけ」くんは嬉しそうに笑った。
「本当だ。すごくきれいに消えるね」
「なっ」
ぼくはまるで自分が誉められたような気分になり、嬉しくなった。
「ありがとう」
彼には本当に嬉しそうにお礼を言われたけれど、どこか後ろめたい気分があった。
だってぼくは、半分にした小さいほうを彼に渡してしまっていたからだ。
その日から、ぼくは彼と話すようになった。
「もののけ」くんは思っていたよりずっといいヤツだった。親切だし優しいし話していて楽しかった。
気味が悪いと思っていた赤い目はよく見ると夕焼けの太陽みたいだったし、おばあちゃんみたいな白い髪は、近くで見ると朝日に照らされて眩しい雪のような銀色に見えた。
時たま怒ると出てくる鋭い爪や牙はさすがに恐かったけど、それで誰かを傷つけることはなかったと思う。
ただ彼は、体育の時間はだいたい休みだった。水泳もダメ、かけっこもダメ。ドッチボールもサッカーも野球もどんなに誘っても一緒にしなかった。お父さんに禁止されているのだと言っていた。そんなときは、もののけって不便なんだなと思っていた。
一学年一クラスの小さな学校で、一年のときから四年間ずっとクラスメイトだったけど、彼ほど勉強熱心だったヤツはいない。なんでそんなに嬉しそうに授業を受けているのか不思議で、一度聞いてみたことがあった。すると「もののけ」くんは笑って答えた。
「本当はボクの姉さんも学校に来たがっていたんだけどダメだったんだ。こっちとあっちを行き来するのにはたくさんの決まりごとがあって、それを全部満たしていないと学校に来るのはダメなんだって。だから、ボクは十年ぶりに許可されたんだって父さんが言っていた。ランドセル眺めて憧れて、それでも来られなかった仲間はたくさんいる。だからボク、一生懸命勉強しないともったいないって思うんだ」
汚いランドセルを大事そうに撫でて、本当に嬉しそうに笑っていた。
「これも父さんが使っていたランドセルを貰ったんだ。学校に行ける許可がでたお祝いにって」
そんなに古いものを使っていたのか、とその時初めて知った。
「お祝いなら新しいの買ってもらえばいいのに」
ぼくは当たり前のことを言ったつもりだった。
「……うん。でもボクこれでいいんだ。これがいいんだ」
「ふーん」
その時のぼくは、適当に頷いて話を止めてしまった。
「もののけ」くんがどこからきてどこに帰っていくのか、それを誰も知らなかった。
ぼくの家に遊びにくることはあっても、彼の家に遊びにいったことはなかった。何度聞いても家の場所は教えられないという。聞けば決まって「ごめんね」と謝るので最後は聞くのを止めてしまった。
電話もないし手紙も届かないんじゃ不便だな、と言うと「本当は言っちゃダメなんだけど」と言ってぼくにこっそり連絡方法を耳打ちしてくれた。
学校の正門横に大きな梅の木がある。その根っこの小さなくぼみに人目につかないようにそっと手紙を置いておけば「もののけ」くんに届くのだと言う。それを聞いたときから、ぼくは誰にも内緒で何度か手紙を書いておいてきた。そうしてぼく達は仲良くなっていった。
「もののけ」くんとの別れが決まったのは突然だった。
四年生の三学期、最後に通知表をもらった日、彼は一人だけ校長先生に呼び出された。 しばらくして教室に戻ってきた「もののけ」くんは泣きそうな顔になっていた。担任の先生が「ごめんな」と彼に言った。校長先生からも同じ事を言われたと彼は言った。
四月から「もののけ」くんが学校に来られなくなるのだ、ということをその時初めて知った。彼もその日、校長先生から初めて聞かされたようだった。
ぼく達が五年生になるときに、今の校長先生が定年で学校を辞めるようだということは、お母さんから聞いて知っていた。今までの校長先生は「もののけ」くんが学校に来る事を認めてくれていたけれど、新しくくる校長先生はどうしても人間の学校に「もののけ」がいること自体がおかしい、と言って認めてくれなかったらしい。先生達もどうにかして「もののけ」くんのことを認めてもらえるように何度も話をしたみたいだったけれど、結局、最後まで新しい校長先生は頷いてくれなかったのだ。
下校時刻が来ても、「もののけ」くんはもらったばかりの通知表を握り締めて、じっと席に座っていた。ぼく達はなんて声をかけていいのか分からずに、いつも通り「一緒に帰ろう」と誘ってみたが、その日は「もう少しここにいたいから」と断られた。
その日を最後に「もののけ」くんには会えなくなった。
五年生になって最初の頃は、ぽっかりあいた席を見るたびに彼のことを思い出した。けれど、六年生の中頃にはもう、正直なところ彼のことを忘れかけていたように思う。
彼の事を久し振りに思い出したのは、寒くなりかけたある日、先生が皆に出した宿題がきっかけだった。
「短い手紙」というもので、たった三行で誰かに手紙を書いてきなさい、というものだった。
手紙、と聞いてぼくが思い出したのは「もののけ」くんのことだった。そう言えば、もう一年以上、手紙も出していない。返事が届かないから出すことも忘れてしまっていたけれど、ぼくが誰かに手紙を書くなら「もののけ」くんにあてた手紙しか想い浮かばなかった。だから、一生懸命に三行で書ける精一杯の言葉を考えた。
先生に出したそんな宿題のことなどすっかり忘れた頃、ぼくは突然、先生から「君の手紙が賞をとったよ」と告げられた。
なんだか知らない間に他人に手紙を見られていた、と後から知って恥ずかしくて怒りそうになったけど、その知らせは小さな町の朗報として近所の人達にまで瞬く間に知られてしまった。手紙を書いた相手ではないたくさんの人に見られてとても嫌だったけど、少しだけ良い事もあった。
ぼくの手紙が賞を取ったという知らせを聞いた、と前の校長先生が卒業式の日にわざわざ学校にたずねて来てくれたのだ。
前の校長先生は、ぼくの手紙の相手がすぐにわかったようだった。
「彼にも是非、この手紙を届けてあげよう」
ぼくの手を引っ張って正門横の梅の木まで連れていってくれた。「本当は秘密なんだが」と言いながら、昔「もののけ」くんが言っていたことを同じ事を教えてくれた。ぼくは初めて聞くふりをしながら、笑いそうになるのを我慢して聞いた。
「梅の木はね、物の怪の妖気を感じると狂い咲くと言われているんだ。そして花を咲かせたその枝は物の怪を殺すことができるそうだ。そうした言い伝えから、『妖気を埋め(梅)る』ということで、物の怪と人間世界の狭間に植えられる事が多いんだよ」
前の校長先生は、大きな梅の木を見上げながら教えてくれた。
「君は彼と一緒に勉強していて、嫌だと思った事はなかったかい?」
「ないです」
ぼくは答えてから気がついた。本当は出会ったとき、小さいのにおばあちゃんみたいな白い髪と、見なれない赤い目を気味が悪いと思ったことを。でも、そんなこと、後からは言いづらくて黙っていた。
「一緒に運動することはできなくても?」
「はい」
「そうか。それは良かった」
前の校長先生は嬉しそうに目を細めてぼくを見た。
「物の怪は総じて人間より力が強いから、彼には悪いと思ったけれど、君達と一緒に運動させることは禁止させてもらったんだよ。外見や能力が自分達と違うから恐い、と物の怪を嫌う人間はたくさんいる。けれど、それは無知からくる悲しい誤解だ。私はそう思って彼らをなるべく受け入れてきた。できることなら彼もこの学校を卒業させてやりたかったよ」
「あの、校長先生……」
「ん?」
「こんなところに手紙置いたまま放っておいて、本当に「もののけ」くんに届くんでしょうか? 返事はきますか?」
ずっと誰かに聞いてみたかったことを、ぼくはその時やっとたずねることができた。
会えなくなった五年生の最初の頃は、何度か手紙を書いておいたことがある。けれど、返事がくることはなかった。本当に届いたのか、それとも風に吹き飛ばされてなくなってしまっただけなのか分からずに、そのうち手紙を書かなくなった。
せめて、彼に届いていることだけでもわかれば、もっと違う気持ちでいられたかもしれない。
見上げたぼくの視線まで屈んで、校長先生は答えてくれた。
「返事は、たぶん来ないだろう。けれど、それは手紙が届いていないということじゃない」
ぼくが首を傾げていると、さらに言葉は続けられた。
「君は会えない人がいたら死んでしまったと思うかい? そんなこと思わないだろう。見えないから存在しないわけじゃない。同じように、返事がこないから届いていないわけじゃない。彼の立場になって考えてごらん。もらった手紙に返事を書いても届ける術がない。届けたくても届けられない。それは、書いた手紙に返事がこないことと同じくらい悲しいことだと思わないか?」
言われて初めて気がついた。ぼくは自分のことばかり考えていた。彼の立場でなんか考えたこともなかった。恥ずかしくなって思わず校長先生から視線をそらした。
「そう言えば、手紙に彼のランドセルのことが書いてあったね」
「はい」
「あれは三十年くらい前に私が彼の父親にあげたものなんだ。それも、卒業生のお古をもらってね」
驚いて顔を上げると、校長先生は笑っていた。
「教科書をヒモで結んで持って来るから、カバンがないよりはましだろうと思って渡したものだ。まさか、あんなものをまだ持っているとは思っていなかったよ。あの子が背負ってきたときは驚いたな。きっと、あれ一つしかないんだろう。あんなに大事にしてくれるのなら、新品を買ってあげればよかった、と今でも思うよ」
いつも汚いランドセルを大事そうに撫でていた「もののけ」くんを思い出した。
ぼく達が自分のランドセルを校庭のすみに放り投げたまま遊ぶのに夢中だったときも、彼は一人だけずっと手放さなかった。変なヤツ、とは思っていたけど、「もののけ」とはそういうものなんだろうと勝手に思っていた。
一つしかないと知っていたら「買ってもらえばいいのに」なんて言わなかったのに。
「……校長先生。ぼく、スコップ持ってきてもいいですか?」
「スコップ? どうするんだい?」
「この穴、大きくしたいんです。ぼくのランドセルも手紙と一緒に送りたいんです。そりゃぁ放り投げたりしていたからきれいじゃないけど、それでも三十年前のよりはましだと思います。この穴を広げたらダメなんでしょうか」
校長先生は少し驚いたようにぼくを見て、そしてぼくの肩を軽く叩いてからいった。
「私も手伝おう」
二人で穴を少しずつ掘って、やっとランドセルが入るくらいにまで広げると、ビニール袋に入れたランドセルを押しこんだ。ランドセルの中には賞をもらった手紙のコピーと、六年生の教科書を詰め込んだ。教科書は校長先生がきっと彼が喜ぶだろう、と言ったので入れておいた。
五年生の教科書は最後の日になんとか渡せたそうだけど、六年生の分はどうすることもできなかったから、と校長先生は寂しそうに言っていた。ぼくにはもういらなくなったものだけど、もしも喜んでくれるなら捨てるよりはずっといいと思った。
最後に、掘って出た土をビニール袋の上からかけて家に帰った。
それから三日後、もう桜が満開の時期なのに小学校の正門横の梅の木が紅い花をいっぱい咲かせた。
梅の花が咲いた日に、ぼくはたまたまその前をお母さんと二人で歩いていた。中学校の制服を買ってもらった帰りだった。
「梅と桜を一度に見られるなんて思わなかったよ。狂い咲きの梅は鬼を封じる、とは聞いたことあるけどねぇ。こんなに咲いたんじゃ狂い咲きってよりは花の宴って感じだね」
お母さんは時期はずれの梅の花を見上げてつぶやいた。
「そうだ。一つだけ覚えておいで」
ぼくを見るお母さんは真剣だった。
「もし、もしもね、大きくなってから昔の『もののけ』くんに出会っても、ぜったいに話しかけちゃいけないよ」
「どうして?」
お母さんの言っていることに納得できなくて、ぼくは反論した。
「せっかく会えても話をしちゃダメなの? そんなの変だよ」
そうね、変ね。といった後、お母さんは言った。
「でもね、そういう決まりなんだって。人間と物の怪は同じ時間を過ごすことが出来ないから、ほんとうは出会ったり知り合ったりする相手じゃないから、だから、だいたいの人は大人になったら見えなくなるんだって。けどね、大人になっても物の怪が見える特別な人間もほんの少しだけいるの。そういう人に話しかけられた物の怪は、二度とこっちの世界に戻ってくることが出来なくなるんだって」
お母さんは困ったように笑っていた。
「どうしてお母さんがそんなこと、知っているの?」
校長先生も教えてくれなかった。『もののけ』くんも教えてくれなかった。そんなこと、お母さんがでたらめに言っているような気がした。
「お母さんもね、お前くらいのころに『もののけ』の女の子と仲良くなったんだよ。その子はちゃんと一緒に卒業していったんだけどね、その子に別れ際に言われたの」
それは、初めて聞く話だった。
「だから、おまえが初めて『もののけ』くんをうちに連れて来たときは嬉しかったわ。あの子と、また、会えたような気がして。だって、別れてからずっと、あの子とは会えなかったんだもの。きっと、お母さんは大人になったら見えなくなってしまう普通の人間だったのよ」
また、出会えると良いね。
お母さんはそういうと、また歩き始めた。
そうなのかもしれない。
二度と会えないよりも再会できるほうがいいに決まっている。
話ができなくても、それでもいい。
お母さんの後について、ぼくも歩き始めた。
その日の夕方、ぼくが一人でこっそり掘った穴のあとを見に行くと、梅の根っこの穴の大きさは、ぼくが掘る前の小さな穴にいつのまにか戻っていた。ビニール袋に入れたランドセルも消えていた。
梅の花はその日一日で全て散ってしまった。
その後もしばらく、町のみんなは不思議なことがあるもんだと噂していた。
ぼくは誰にも話さなかった。
ランドセルのことも、手紙のことも、校長先生と一緒に掘った穴のことも。
それは、ぼく達だけが知っていればいいことだ。 |
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